「動物の葬禮」(富岡多惠子)

動物のような生き方しかできないヨネとサヨ子

「動物の葬禮」(富岡多惠子)
(「日本文学100年の名作第7巻」)
 新潮文庫

ときどきしか顔を出さない
娘・サヨ子が、
付き合っている男・キリンを
連れてやってくる。
しかし彼はすでに死んでいた。
娘はこの家で
キリンの葬禮を出すのだという。
翌日、娘は外へ出て行き、
ヨネは他人の死体と
過ごすことに…。

「動物の葬禮」という表題からは、
何か大切にしていたペットとの別れを
惜しむような雰囲気が感じられますが、
まったく違います。
痩身長躯でキリンという渾名のある男を
弔うまでの顛末が描かれているのです。
娘が久しぶりに現れ、
実家に男性を連れてきたと思ったら、
それはすでに亡骸だった。
一見ドタバタ劇にしか
思えないのですが、何度か再読して、
ようやく本作品の持つ味わいに
気づくことができました。

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今日のオススメ!

一つはヨネという人間のもつ
おかしみです。
指圧師(おそらくは
無資格のもぐり)として
生計を立てているのですが、
大きく繁盛しているのではなく、
あの手この手で客をくわえて
離さないのです。
しかもお得意さんから不要なもの
(それが何であれ)をもらい受け、
悦に入っているのです。
吝嗇家であり
図太い神経の持ち主なのですが、
先を見越して行動するタイプでは
なさそうです。

もう一つはヨネの娘・サヨ子の
直情径行型の振る舞いです。
同棲していたキリンが病死し、
その葬儀をあげるために
遺体を実家に運び込む。
夜更けに通夜のための酒を
近所のスナックから買い入れる。
キリンの「貸し」を取り立てるために
奔走する。
弔問客の一人もない中で
葬儀を遂行する。
次から次へと
手際よくこなしてはいるのですが、
どれも行き当たりばったりです。

二人の行動からは、
人間らしい感情の表出が
随所に見られるのですが、
人間らしい知性や文化度は
感じられません。
ヨネからもサヨ子からも
一日一日をなんとかしのぐような
生き方しか見えてこないのです。
表題の「動物」とは、
動物のような外見を持つ
キリンではなく、
動物のような生き方しかできない
ヨネとサヨ子のことなのではないかと
考えてしまいます。
つまり「動物の(ための)葬禮」ではなく、
「動物の(執り行った)葬禮」
なのではないかと。

それを裏付けるように、
物語はヨネとサヨ子の
些細なことから始まった
取っ組み合いの喧嘩で幕を下ろします。
「ふたりは、狭い部屋の、
 品物の散らばった上に
 ころげながらつかみあっていた。
 その間に、ヨネとサヨ子の、
 かわるがわるの
 短い叫び声が聞えた。
 仕事できたえたヨネの腕の力と、
 若いサヨ子のからだ全体の力が、
 そこで衝突したり
 ねじれたりしていた。」

「日本文学100年の名作第7巻」
 収録作品一覧

1974|五郎八航空 筒井康隆
1974|長崎奉行始末 柴田錬三郎
1975|花の下もと 円地文子
1975|公然の秘密 安部公房
1975|おおるり 三浦哲郎
1975|動物の葬禮 富岡多惠子
1976|小さな橋で 藤沢周平
1977|ポロポロ 田中小実昌
1978|二ノ橋 柳亭 神吉拓郎
1979|唐来参和 井上ひさし
1979| 李恢成
1979|善人ハム 色川武大
1979|干魚と漏電 阿刀田高
1981|夫婦の一日 遠藤周作
1981|石の話 黒井千次
1981| 向田邦子
1982| 竹西寛子

(2022.3.17)

HeungSoonによるPixabayからの画像

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